時事記録 就職活動のために

10/18/2006

いじめ自殺 子どもの叫びを聴け (朝日社説)

 また、いじめが引き金になって子どもの命が失われてしまった。
 福岡県筑前町の三輪中学校に通う2年の男子生徒が、いじめを受けたとの遺書を残して自殺した。あろうことか、いじめの発端は1年の時の担任教師だった。
 学校などによると、生徒がたびたび早退し、自宅でインターネットのサイトを見ていたため、母親がこの教師に相談した。教師はその内容を同級生に暴露した。それが発端となって嫌なあだ名をつけられ、いじめが広がった。
 友人が落とした文具を拾ってあげた生徒に、教師が「偽善者にもなれない偽善者」と言ったこともあった。
 教師は生徒の両親に「からかいやすかった」と釈明した。強い立場にある教師にとっては悪ふざけや冗談であっても、受けた側には暴力そのものだ。頼りにする先生からの仕打ちにどんなに傷ついたか。子を持つ親ならずとも、強い憤りを覚えることだろう。
 20年前、東京都中野区の中学2年生が「このままじゃ、『生きジゴク』になっちゃうよ」との遺書を残して命を絶った。「葬式ごっこ」という陰湿ないじめが横行し、しかも4人の教師が加担していたことに社会は大きな衝撃を受けた。
 今回は担任がいじめを主導したといっても過言ではない。より悪質といえよう。こんな教師は例外的な存在と思いたいが、教育の現場はどうなのか。
 文部科学省が集計する小・中・高校のいじめは昨年度で約2万件だ。一方、自殺は105件あったが、いじめが原因とされたのは99年度以降では皆無だという。一見、落ち着いたかに見える。
 だが、昨年9月、北海道滝川市の小学校でいじめに苦しんで自殺した小学6年の女児は遺書で訴えていたのに、学校も市教委も黙殺していた。
 三輪中学校でも、ここ数年、7、8件のいじめが起きていた。それなのに、校長は町教委に「0件」と報告していた。
 ことを荒立てず、内密にすませようとする学校。都合のいい報告をうのみにして現実から目をそらす行政。両者のもたれ合いが、弱い者いじめを許している。
 そのうえ、教師が加担したり、見逃したりしていれば、子どもが救いを求める先がなくなってしまう。こうした事態にどう対処すればいいのか。
 参考になる例がある。兵庫県川西市は99年、第三者機関として「子どもの人権オンブズパーソン」制度を設けた。全国でも初の試みで、弁護士や医師らが電話相談をもとに独自に調査し、問題があれば学校や親に勧告する。
 昨年の相談件数は588件。うち4割が子どもからの相談だった。最悪の事態を防ぐセーフティーネットの役割を果たしている。
 悲劇を根絶するには、子どもたちの叫びに周りの大人が真剣に耳を傾け、いじめを決して許さない姿勢を貫くことしかない。